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更新日 2022年10月2日

執筆     遠藤徹 

更新日 2022年10月2日

執筆     遠藤徹 

4.戦後の展開

 第二次大戦後には、大正時代に輸入が始まった西洋の近代の音楽学が強い影響力を持つようになります。西洋の近代の音楽学では、いわゆるクラシック音楽の研究が中心に置かれ、それ以外の音楽の研究は比較音楽学(後に民族音楽学)に位置づけられています。そのため戦後の日本の音楽学は、西洋近代の音楽学を移植した西洋音楽史・民族音楽学(もう少し広くとると体系的音楽学)という枠組みと、戦前からの日本音楽研究・東洋音楽研究という二つのレールが並立することになります。戦後に作られた音楽大学や教育大学等の音楽学の講座は西洋音楽を中心に据えたので、音楽大学・教育大学等の音楽学は一般に前者のレールが敷かれ、そこに後に日本音楽を付加するというかたちがとられました。

 一方、大学に音楽学の講座のない中で始まった戦前の日本音楽研究、東洋音楽研究は、戦後も変わらず日本文学、日本史、東洋史、中国文学などの分野の中で受け継がれていきました。今日ともすると日本の音楽学は西洋の近代音楽学の輸入に始まると思われがちなのは、そのためでしょう。この体制は現在もあまり変わっておらず、日本音楽、東洋音楽に関しては、大学等で他の分野に所属する研究者から音楽学の重要な成果が生みだされる例は少なくありません。

 さて、昭和の終わりころまでは、日本の音楽学の研究対象は地域を問わず古典音楽や伝統音楽にほぼ限られていました。しかし平成以降は研究対象が大きく広がっていき、ポピュラー音楽が研究の俎上にあげられるようになるとともに、音楽文化を成り立たせているあらゆる側面に関心が向けられるようになっていきました。そして現在では音楽に関することであれば何でも音楽学の研究対象になるといえます。これは音楽学の本来あるべき姿ともいえますが、研究方法が多岐になったことが音楽学の専門性を曖昧なものにしている面があることも否定できません。それゆえ今日では音楽学の研究方法を一律に述べることは困難になっていますが、どんなに研究対象が広がったとしても音楽を離れては音楽学は存在し得ません。また音楽学は学問分野の一つであると同時に、自身が研究対象にしている音楽文化の一部でもあります。音楽の歴史や音楽文化にいかなる貢献ができるか、その辺りが音楽学では研究の存在意義を考える上で一つの尺度になるでしょう。

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